AX(AIトランスフォーメーション)という言葉を見聞きする機会が増えました。しかし、AIツールを導入するだけでAXになるわけではありません。本記事ではDXとの関係を整理し、私たちがメール対応や予定確認、営業マッチングをAIへ引き継いだ実例から、中小企業がAXを始める際の考え方を紹介します。
背景・課題

生成AIを使い始めても、仕事の流れが変わらないケースは珍しくありません。メールの返信案をAIに相談しても、受信箱を開いて本文をコピーし、指示を書き、回答をGmailへ戻す作業は人に残ります。これではAIを使う回数が増えただけです。
DXは、紙をデジタルに置き換えるだけの話ではありません。データとデジタル技術を使い、業務や組織、事業の形まで変える取り組みです。IPAのDX解説でも、製品やサービスだけでなく、業務や組織、企業文化の変革まで含めて説明されています。
AXは、その変革の中心にAIを置く考え方です。IPAのデジタルスキル標準ver.2.0は、AXの進展を改訂の背景に挙げ、AIをDX実現に欠かせない技術の一つとして位置づけています。DXとAXは対立するものではなく、重なる領域があります。
本記事では、DXをデータとデジタル技術による企業変革、AXをAIが判断や業務の流れに組み込まれた変革として整理します。公的に統一された唯一の定義ではなく、実務を考えるための整理です。
やったこと

身近な業務から順に、3つの仕組みを作りました。
1. 必要なメールだけ返信下書きを作る
Gmailに届いた新着メールを15分ごとに確認し、Geminiが返信の要否を判断します。判断には、スプレッドシートに書いた返信必須・不要の基準、会社の背景情報、文章ルール、過去の返信例を使います。返信が必要なら同じスレッドに下書きを作り、不要なら記録だけを残す仕組みです。
送信は自動化していません。AIが作った下書きを人が確認し、必要なら直して送ります。判断基準や文体はシートを書き換えれば次回から反映されるため、コードを毎回修正する必要もありません。
同じ考え方は新規営業にも使いました。企業の公開情報を確認し、相手ごとに内容を変えた営業メールをGmailの下書きへ保存する流れです。2026年6月16日には21件の下書きを作り、すべて人が確認して送信しました。
2. カレンダーを開かなくても予定がLINEに届く
家族でGoogleカレンダーを共有し、1つのGoogle Apps Script(GAS)が共有分を含む予定を取得します。朝は今日と明日、夜は明日の予定を、普段使っているLINEへ自動で届けます。利用者が同じ公式LINEアカウントを友だち追加する構成なので、人数分の通知システムは必要ありません。
予定はカレンダーに入っていても、見に行かなければ忘れます。「カレンダーを確認する」という作業を求めず、毎日見るLINEへ情報を持ってくる形に変えました。
3. SES営業の案件と人材を自動で照合する
SES(システムエンジニアリングサービス)営業では、日々届くIT案件と人材の情報を読み比べ、条件が合う組み合わせを探します。以前はメールやメッセージを人が読み、スキル、勤務地、単価などを照合していました。
現在は、受け取った通知を取り込み、AIが案件・人材の情報を抽出してスプレッドシートへ保存します。その後、条件に合う候補を画面に出し、提案メールの下書きまで作ります。候補を出すところで終わらず、提案済みかどうかも記録する仕組みにしました。
3例の共通点は、AIとのチャットを増やしたことではありません。「情報を受け取る」「判断する」「普段使う場所へ結果を出す」「人が最終確認する」という仕事の流れを組み直した点です。
結果

メール返信では、受信メールを読みながら文面を一から考える手間がなくなりました。下書きが先に用意されているため、内容を確認して送るところから始められます。実際に動かしていて、非常に便利だと感じている仕組みです。
LINE予定通知は、カレンダーを開かなくても朝と夜に必要な予定が届く状態で安定運用しています。小さな仕組みですが、毎日繰り返す確認作業を減らす効果は実感しやすいものでした。
SESマッチングは、人が約30分かけていた作業をAIで18.8秒まで短縮しました。30分は利用者の体感、18.8秒はシステムの実測なので、同じ精度の測定値ではありません。それでも、自社内で情報の取り込みから候補提示まで回せるようになりました。
今回の3例は、大規模な基幹システムではなく、身近な業務から小さく変えたものです。意思決定の範囲が見えやすい業務なら、人が確認する場所を残したまま始められます。
つまずきと対処

自動化の範囲を広げすぎると、便利さより不安が勝ちます。メールは誤送信の影響が大きいため、下書き作成までに止めました。本文などを外部のAIへ送る設計でもあるため、対象をGmailの検索条件で絞り、機密性の高いメールを扱わない運用が必要です。
LINE通知も、実際の運用と古い設計資料にずれがありました。資料には自分用と家族用の2系統が書かれていましたが、現行運用は共有カレンダーと1つの公式LINEだけです。仕組みを作った後も、今どう動いているかを確認しなければ、不要な複雑さを正解だと思い込んでしまいます。
別に作ったAI秘書では、3層の記録体制を全28プロジェクトへ配置しました。しかし、定着したのは1層だけです。約2週間かけたWebアプリ版も運用に乗らず、軽い仕組みへ作り直しました。
機能を増やすより、使う人が普段いる場所へ結果を届け、必要な確認だけを残すほうが続きます。
まとめ

DXはデータとデジタル技術を使った企業変革で、AXはAIを判断や業務の流れに組み込む変革です。境界を厳密に分けるより、AIがチャットの中だけにいるのか、日々の仕事の流れに入っているのかを見るほうが実務では役立ちます。
最初から全社を変える必要はありません。返信メールを考える、明日の予定を確認する、届いた情報を照合するといった、繰り返し発生する1業務を選びます。入力、判断、出力、人が確認する場所を順に決めれば、小さく始められます。
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